光のもとでⅠ

07

「ただいま!」
「おかえりなさい……」
 笑顔の栞さんに笑顔を返すことはできなかった。
「翠葉ちゃん……?」
 荷物を置き、私の方へと歩いてくる。
 髪の毛はすでに下ろされていて、首の後ろは見えないようになっている。でも、ラグの上には救急箱が出ているままだし、テーブルには髪の毛に付着した血を拭いたタオルが置いてある。
「美波さん……? これ、なんですか?」
 栞さんは険しい顔つきで、救急箱が出ている理由を美波さんに尋ねた。
「翠葉ちゃん、話しちゃうわよ?」
 確認をされたけれど、その返事に否定を返せるわけがなかった。
 でも、栞さんが知ったらどんな思いをさせてしまうだろうか。と、それを考えるとなかなか首を縦に振ることもできなかった。
 美波さんはため息をひとつついて話しだす。
「あくまでも無意識よ? それをわかったうえで聞いてね。首、かなりひどい擦過傷起こしてる。どうも寝てる間に引っ掻いてたみたいなの」
 その言葉を聞いた瞬間に、栞さんが私の後ろに回り髪の毛を持ち上げた。
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