光のもとでⅠ
「っ…………」
「本人、出血してることすら気づいてなかったのよ。話の途中でなんとなく首に手を伸ばした、そんな感じだった。そのとき、指に血液が付着して気づいたの」
 後ろから栞さんにぎゅっと抱きしめられた。ただそれだけのに、目に涙が滲みだす。
「栞さん、ごめんなさい……」
「……いいのよ。無意識のものを止めるのは自分じゃ無理なの。周りの人が気づいて止める。それが対処法よ」
 あぁ……だから今日は一日私についていようと思ってくれたんだ。
「翠葉ちゃん、ここにいるのはつらいかしら? それなら幸倉のおうちに戻ってもいいのよ?」
 抱き締められたままに問われた。
 即答はできずに、じっとラグの一点を見て考える。
 ここに来てから、なんだか自分の手には負えないことが多く起きている。でも、ここからじゃないと学校に通うのは厳しいだろう。
「来週からは学校に通いたいんです……。でも、それは幸倉からじゃ難しいと思う」
「そうね……。ここじゃなくて私の家に戻る? 昇は八月にならないと帰ってこないわ。それまでは主寝室を翠葉ちゃんが使ってもかまわない。そしたら空は見えるわ。身体を自分で起せるのなら、ピアノを弾きたいときはここに下りてくればいい。静兄様の部屋のキーを渡しておけば、十階の部屋から九階に下りることもできる」
 栞さんは次々と提案してくれる。
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