ホワイトタイガー
「今起こっていること、ぼくがわたしに対して話すのは、ただの現象なんだと思う。
そしてそれは日々の出来事に対してなにかしら対応していこうとしていく無意識による意志であるように思う」
わたしという言葉の後に、手の平を見せるようにひっくり返して私に向かって差し出してきた。あなたというゼスチャーなんだろう。
白くて長い五本の指全部が私を目がけて伸びてくる。
そのあとホワイトタイガーさんは独自の宇宙理論を話した。
それは主に超ひも理論、超弦理論やM理論を元にしたモノで、何もないところから何かが生まれるという事についてだった。
「目で見えたり理解できるモノばかりが何もないところから生まれてくれればいいのですが、”ダークマター”とか”ダークエネルギー”という宇宙には正体不明のモノが殆どであり解っているものなんかは数パーセント程度なんです」
ぐいぐいとストローを使わずにアイスコーヒーを飲み干していった。グラスの黒がどんどんと無くなる。
「目で見ただけとか、頭で理解したつもりだけのものは、経験とはいえない。
たとえば丘の上から海を初めて見た人がいたとして、
どうなってるんだろうって、考えた時。
その海を初めて見た観測者の隣にいた人が、突然海に飛び込んだとする。
観測者は、しぶきを上げて忽然と消えるのを目の当たりにするわけ。
その瞬間だけを切り取れば海に飛び込むと消えると理解するに至った。少なくとも次に上がってくる時間までは、そう仮定するはずだ。こういうことから……」
話の途中で電話が鳴り、ホワイトタイガーさんは電話に出ながらカバンに本を詰めて、片手で財布から千円二枚を抜き取ってテーブルに置いた。
そしてそのまま、電話しながら店から出て行った。
名前も携帯電話番号も聞かれずに何だったんだろうと、考えてると電話をしながら戻ってきたホワイトタイガーさんは大事であろうコートを手にとって、また店から出て行った。
その夜の出勤途中と、店が終わってから空を見上げてみた。
月が黄色くて、とても綺麗だった。
空を見たのは、いつぶりなんだろうか?
宇宙には全く興味はなかった。
そんなわたしが、立ち止まって夜空を見上げている。