銀棺の一角獣
受け継ぐもの
 道中は貴族の屋敷を宿泊所として借り上げることにしたらしく、贅を尽くしたもてなしを受けた後、アルティナは与えられた部屋へと引き取った。

 キーランは隣室に宿泊するようだ。


「アルティナ様。警護の者二名、参りました。何かあればすぐにお申し付けください」


 扉の外から聞こえた低い声に、アルティナの胸が震えた。


「もう、身体はよいのですか?」


 その声に向かって扉越しに話しかける。


「元通りというわけにはいきませんが」


 一週間前には起きあがることも容易ではなかったはずだ。馬に乗ってアルティナに従う彼が心配ではないと言えば嘘になる。


「……そうですか」


 今までなら、きっと扉を開けて直接会話を交わしていただろう。主従という分を越えていることがわかっていても。

 けれど、今はそうする気にはなれなかった。キーランと婚約しているのだから、これ以上ルドヴィクに心を寄せるわけにはいかない。寛大にもキーランはアルティナとルドヴィクの接する機会を作ってくれるけれど。
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