銀棺の一角獣
 アルティナは、馬車の小さな窓から外の様子をうかがう。騎乗のルドヴィクと目が合った。

 ――視線を交わすことしかできない。

 彼が手で合図している。楽にするように、と言っていることにアルティナは気がついた。

 こんな時に楽な気持ちになんてなれるはずもないだろうに。それでも靴を脱ぎ、ベールを外して少しでもくつろごうとした。

 席に深く座ったアルティナは、胸の前で手を組み合わせる。思い起こすのは兄のこと、父のこと、そして母のこと。

 毅然としていなければ。そうは思うものの、いざライオール王と顔を合わせた時にそうできるか自信はなかった。

 兄がいたから、アルティナは政治のことにはあまり関わらないで生きてきた。兄が逝き、そこで初めて国の未来を考えた。

 父も亡き今は、国の全てはアルティナの肩にかかっている。これからの戦いは、アルティナが全て――負けるわけにはいかないのだ。
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