銀棺の一角獣
山間の村にて
 どれほど走り続けたのか――騎士たちはともかく、アルティナは疲れを感じ始めるまでそれほど日数はかからなかった。

 王宮でゆっくり休めたのは一日だけ。あとはずっとティレルの背に乗り続けている。気候がいい時期ではあったけれど、固い地面で休むのは、王宮で贅沢な生活をしていたアルティナには堪えた。


「今夜はあの村にとまりませんか?」


 ルドヴィクが指し示したのは、山間にある小さな村だった。谷間に張り付くようにしてひっそりと、十軒ほどの家が並んでいる。


「……でも」

「アルティナ様のお身体が心配です。昨日も、一昨日もあまりよくお休みになれていないでしょう」

「……気づいていたの?」

「当たり前です」


 ルドヴィクの夏の空を連想させる瞳に、思わず吸い込まれそうになる。それはいけないと、アルティナは自分を叱咤して強引に顔を背けた。
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