銀棺の一角獣
初めての口づけ
 夜通し走り続けたティレルがようやく足をとめたのは、野営に選んだ場所とよく似ている小川の近くだった。岩の陰に身を隠す。

 アルティナの腰に巻き付いていた腕が、ようやくそこで解かれた。先に飛び降りたルドヴィクの左肩に背後から矢が突き刺さっているのを初めて知って、アルティナは悲鳴を上げる。


「肩……ルドヴィク、肩!」

「わかっていますよ――自分の肩に何が起こっているのかくらい」


 苦笑いして、ルドヴィクは右手を首の後ろに回す。唇を噛みしめたうめき声とともに、彼がその手に力をこめると、矢は地面に放り出された。


「た……大変、ええと、手当! 水?」


 おろおろしているアルティナをよそに、ルドヴィクは上半身に着ていた物を脱ぎ捨てながら小川の方へと向かう。

 呆然とアルティナはその後ろ姿を見送った。肩の傷は半ば乾きかけている。そこに矢を抜いたことで新たな出血が加わって、痛々しかった。
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