銀棺の一角獣
 そう言ったティレルが大きく跳躍する。アルティナは目を閉じた。

 身体に巻き付いた彼の腕の感覚。

 何度も抱きしめあった。家族を失った時、彼の腕に身をゆだねて泣いた。この腕を生涯手放すことなんてないと思っていたのに。

 ――今だけ。

 今この時だけ。

 婚約者のことは頭から追い払って、アルティナは温かな腕に身体を預ける。

 何があっても、大丈夫だと――この腕だけは信じられる。そう思った。

 後ろから矢が飛んでくる。


「アルティナ様、しっかり鞍に掴まっていてください。振り落とされないように――」

 そう言ったルドヴィクは上半身を後方へ捻る。ティレルにくくりつけていた弓がいつの間にか彼の手に握られていた。

 矢をつがえ――放つ。

 悲鳴が上がり、その直後に重いものが地面に叩きつけられる音が続く。

 アルティナは鞍にしがみつき、上半身を丸めて、振り落とされまいと両足に力を込める。


「跳ぶぞ!」


 ティレルがもう一度警告して、大きくジャンプする。アルティナの胸は、不安に震えた。
< 192 / 381 >

この作品をシェア

pagetop