銀棺の一角獣
 彼はアルティナの髪に触れ、手を握りしめ、そして何度も抱きしめてくれた。けれどそれ以上はアルティナがどれだけ望んでもしてくれたことはなかった。

 婚約者のいる今になって、と反発する気持ちがないと言えば嘘になる――けれど、アルティナは彼をとがめようとはしなかった。

 婚約者を裏切って、他の人と口づけを交わしている。

 何て罪深いのだろう――その罪におののきながら、それでもアルティナの胸に小さな歓喜の炎がともる。

 この炎をこれ以上大きくしてはいけない。理性はそれを訴えかけてくるけれど、心はとまってくれなかった。

 一度離れた唇が、もう一度押しつけられる。

 唇が自然に開いた。

 するりと入り込んできた舌は、優しくアルティナの舌をからめ取った。

 口内をうごめく舌に、アルティナの背中がぞくぞくする。小さく喘いで、ルドヴィクの背中に両腕を回すと、口付けはいっそう深くなった。

 唇が離され、今度は下唇を舐められる。
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