銀棺の一角獣
 ずっとこうしたいと望んでいた。アルティナはルドヴィクがしたように、彼の下唇を自分の唇で挟み込む。同じことを何度も繰り返す。

 いつの間にかアルティナの心からキーランのことは完全に追い出されていた。彼に対する罪悪感も。ずっと待ち望んでいて、ようやく与えられた口付けに無上の喜びを覚える。


「邪魔するのは気が進まないんだがな」


 ティレルの声がして、アルティナは飛び上がるようにしてルドヴィクから離れた。顔が真っ赤に染まっているのが自分でもわかる。


「そろそろ出発したいんだが」


 そう言ったティレルは、アルティナが放り出した荷物をきちんと拾い集めてくれていたらしい。さすがに袋の中におさめることまではできなかったようで、それはきちんと一カ所に集められていた。


「……申し訳ない」


 苦笑いして、ルドヴィクは立ち上がる。次の瞬間、彼の心からアルティナのことは完全に消え去っているように見えた。

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