銀棺の一角獣
 それでも、遠く離れてさえいれば過ちは犯さないですむ。アルティナが微笑みを向けるのも、夫であるキーラン一人だけだ。

 優しくて、尊敬できる彼の側にいるのなら――きっと穏やかに暮らしていけるだろう。ライオール王の心を取り戻した後なら、きっと。


「……キスしてくれる? それ以上は……望まないから……」


 そっと指が絡められる。それからアルティナの願いを、彼は叶えてくれた。

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 眠ることができたのは、ほんのわずかな時間だった。ルドヴィクの腕の中で、アルティナは少しだけ身動きする。

 その度に頬に、額に、彼の唇が押しつけられた。アルティナを安心させようとするかのように。

 そうやって身を寄せ合わせていないと、ティレルが無事に戻ってくるのか不安で――ルドヴィクは儀式なのだから大丈夫だと言ってくれたけれど、本当に殺してしまったのではないかという不安はアルティナの胸を離れてはくれなかった。
 
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