銀棺の一角獣
ルドヴィクの手に剣を
 森から出ないように言われていたから、アルティナは、その場から動かなかった。木によりかかっているルドヴィクに背中を預けて、じっとしている。

 ルドヴィクはアルティナを腕に抱えたまま、同じように身じろぎせずにいた。


「アルティナ様……空腹ではありませんか?」

「いえ、大丈夫。それどころではないわ」


 アルティナはルドヴィクから身をほどいて、立ち上がった。木々の隙間を見て、その向こうに何が見えるのかを探り出そうとする。


「まだ、来ないようですね」


 ルドヴィクは、アルティナを後ろから抱きしめて耳の上に唇をあてる。そうされるとくすぐったくなって、アルティナは小さく笑った。

 こうしていると幸せだ。この幸せな時間はあっという間に終わってしまうこともわかっていたけれど。


「ああ――アルティナ様、ティレル殿です」


 ティレルが戻ってきたのは、昼を過ぎ、夕方近くになってからだった。
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