銀棺の一角獣
「このあたりでよろしいですか? どのくらい切りましょうか」

「頼む――血が滴るくらいに切ってくれればそれでいい」


 短剣がひらめいたかと思うと、血が滴り落ちた。アルティナは目を見はる。ルドヴィクは顔色一つ変えずに立ち上がる。

 湖の畔で聞いたのとは別の呪文を、ティレルとは唱え始めた。滴り落ちたティレルの血が、呪文に合わせるように流れて刀身に吸い込まれていく。

 アルティナは、身体から、何かエネルギーのような物が引きずり出されているように感じた。アルティナの手がぼんやりと光って、そこから放たれた光がティレルの血の後を追って刀身に吸い込まれていく。


「やれやれ」


 完全に血が吸い込まれると、ティレルは首を振った。それからもう一度何か唱える。ルドヴィクの切った傷がみるみる消えて、何事もなかったように完治する。


「ルドヴィク。それはお前にまかせる」

「……かしこまりました」
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