銀棺の一角獣
「使わせていただきます。あなたに頂いたあの紐を――」

「適当な部屋を用意させます。すぐに服も届けさせるから――出陣の支度を調えてください」

「かしこまりました」


 完璧な臣下の顔を、彼は崩さない。アルティナの恋人の顔を取り戻したのは、手に口づけたその一瞬だけ。


「行きましょう」


 そう言われて、アルティナは女王としての意識を取り戻した。大きく呼吸をし、意図して背中を伸ばす。


「ええ、行きましょう――この戦い、負けるわけにはいかないのだから」


□■□ ■□■ □■□


 アルティナが自室に戻った時には、侍女たちは大騒ぎだった。アルティナのドレスは全て部屋のあちこちに広げられている。

 しばらくの間喪服以外は着るつもりはなかったから、ドレスは奥にしまい込まれていた。


「……どれをお召しになりますか?」


 アルティナは室内をぐるりと見回す。壁に寝台に椅子にテーブルにと至る所にドレスがかけられていた。
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