銀棺の一角獣
「……彼はここにはいませんもの」


 共犯者めいた笑みアルティナも返す。
 きっと、思っていたよりずっとキーランに惹かれていた。

 もし違った出会いなら――もし――何も起こらなかったら。きっとキーランはアルティナの側で、”女王のよき夫”となっただろう。アルティナの心情を全てくみ取ってくれた上で。

 けれど……そんなことを考えてもしかたない。アルティナはそっとキーランの腕から身をほどく。


「いずれにしても、近いうちにこちらからお国を訪問しなければなりません――その時には、キーラン様が案内してくださいね?」

「約束する」


 二人は指を絡めた。それからキーランは思いきったように向きを変える。
 アルティナとしても名残惜しかったのだけれど、彼をいつまでもこの国にとどめておくわけにもいかなかった。

 さようなら。
 心の中でつぶやいてアルティナは小さくなっていくキーランの隊列を見送る。

 最後の一騎が見えなくなるまで、アルティナはその場から去ろうとはしなかった。
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