銀棺の一角獣
 アルティナは彼の名を呼ぶ。彼は目の前にいるのに、どうしようもなく愛しくて切なくて苦しかった。

 本当は、ようやく会えた彼の胸に飛び込みたかった。それを意志の力で押さえつける。


「……あなたを、愛しています……けれど。今のわたしはあなたのことを考えるわけにはいかないの」


 もう、キーランに誠実である必要はない。婚約が破棄された今、アルティナとルドヴィクの間に障害はない。けれど目の前にやらなければいけないことが山とある。


「アルティナ様」


 残ったルドヴィクは、アルティナの前に改めて膝をついた。


「どうか……お側にいることをお許しください。どうか――永遠の忠誠をあなたに」

「わたしはあなたに報いることはできないわ。あなたの忠誠心を――心を、受け取るだけ受け取って、何も返すことができないの」

「それが当然です――アルティナ様」


 ルドヴィクの手が、アルティナのスカートへと延びる。裾を持ち上げると、そこに口づけた。
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