銀棺の一角獣
 国を取り戻してから一月が過ぎても、ティレルがリンドロウムの森に帰る気配はなかった。ルドヴィクが持っていた剣は、彼の手に返ったけれど、それを森に送り返した――彼の力に寄れば一瞬のことらしい――その後も王宮内の一角にとどまっている。

 夏の間はよかったけれど、冬になればそれなりに冷え込む。馬と一緒はごめんだとティレルがごねるので、彼のために王宮内の一室があけられた。

 客人を滞在させるのとは別の女王が私的に使っている一角だ。その部屋は一階にあり、窓から直接庭園に出入りすることができる。

 ティレルの部屋の隣は彼についた侍女二名の部屋にあてられて、ティレルが呼べばいつでも駆けつけられるように待機することになっているのだが、たいてい彼の部屋にいるので呼びつける必要はないらしい。


「……一日二回も入浴するだなんて贅沢ね!」


 新しい石鹸が必要だと申し出てきた侍女に、アルティナはあきれた笑みを向けた。アルティナだって夜会に出かけるとか、よほど汗をかいたとかでない限り、一日に一度の入浴なのに。
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