銀棺の一角獣
 ライディーア王国は自然の豊かな国であり、王宮はその中でもさまざまな資源の豊富な場所に建てられている。たとえば、王族の使う浴場は温泉が引かれていて、いつでも新鮮で綺麗な湯に浸かることができるのだ。

 ティレルはその恩恵を思う存分満喫していた。さまざまなハーブで香りをつけた石鹸が気に入ったらしく、毎回侍女達に背中を流させているらしい。


「こちらの経済事情も考えてほしいわ……」


 戦争が終わったばかりで、主だった王族もほとんどが死に絶えている。きちんとした葬儀を執り行い、兵士たちに給料を払い、国の復興……となれば、いくらあっても足りないのだ。


「しばらく水浴びのみで過ごしていただきましょうか――」


 宰相のデインもさすがに渋い顔をしている。ティレルの体は人間に比べればはるかに大きいから、石鹸のなくなる頻度も頻繁なのである。

 ティレルに言われて新しい石鹸を取りに来た侍女のクレアは、二人の前で申し訳なさそうにうなだれている。
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