銀棺の一角獣
 先に待っていたライオールが自分にもするようにと身ぶりで要求する。くすりと笑って、アシュリーは彼の額にも唇をあてた。

 小さな声で、ライオールが言う。


「あいかわらず笑うのが下手な女だ」

「少しくらいは、笑えるようになりました」


 今でも、凍った窓に映った月を夢に見ることがある。
 凍った窓に映る月を見ては、遠く離れた場所にいるライオールのことを思い出した。彼が幸せであればいいと、雪に閉ざされた城で祈り続けたあの日々のことを、夢に見る。


「――笑え」


 ライオールに命じられ、アシュリーは口角を上げた。それでもようやく笑うことができるようになった。少なくとも彼の前だけでは。


「もう少し笑え」

「わたくしを笑わせて、どうしようというのです?」

「俺が、お前の笑った顔を見たいからだ」

「しかたのない方」


 アシュリーが言われたようにすると、ライオールは破顔して彼女を引き寄せる。もう一度、彼女は笑った。
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