天神学園高等部の奇怪な面々27
そこから、この生真面目で実直ながら柔軟さのない頭の持ち主の説得まで、小一時間を要した。

純粋ゆえに一ヶ所にしか視線を向けられない善は、転校してから今まで、五所川原の背後にいるバイオリン妹の存在が視界に入らなかったらしい。

何という視野の狭さ。

流石は旦那と同じ夕城男子というべきか。

「な、ならば…」

小刻みに震えながら、善は涙目になって語る。

「あのつぶらな瞳の美しい令嬢、五所川原殿という存在は…」

「「「これ」」」

バイオリン妹、リヴリア、けしからん娘が、『ぬいぐるみ』五所川原を指差す。

ガクリと跪く善。

小さな武士の初恋は、この朝、成就する事なく終焉を迎えた。

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