砂漠の水車
グレンは長く米軍に所属していた過去がある。
長く、といっても、まだ20代な自分の歳で長くだなんてたかが知れた経歴だけれど、帝国に渡ったのはとある戦線でのトラブルの際、ジン、というよりかは彼の権力に世話になったのがきっかけである。
精鋭の通信士役であった彼に友人は無く、また親族も見当たらなくなっていたので、さっきみたいな台詞は耳に馴れない。
自分の負傷で奴が困るだなんて――…秘書官たるレインや副隊長のアルファほど重要な位置でもあるまいし、と考えを巡らせた。
ああ、そりゃあ困るか。
彼はアイヴァンス侯爵が経営する出版社を一つ任されている。
帝国では一番の人気出版社であり、現在のアイヴァンス侯爵の収入源その2でもあるのだ。
ほとんど会社はグレンに任されっきり。
納得しうる理由だ。
「………」
無線機を切ったあと、グレンは少しその場に立ち止まった。
……ああ、馴れないことを言われたせいで腹の奥が変に捩れる。
照れ臭いだなんて大袈裟だが、当たらずとも遠からずな言い方。
……たとえ金利ゆえの理由でも、頼られていることが彼には新鮮であり、心苦しいことであった。
長く落ち込んだところにいると、ふとして差し込んだ光は眩しすぎるように。