アカイトリ
…静かな寝息がすぐ間近で聞こえる。

瞳を開けると、唇が触れそうな距離で颯太が眠っていた。

金の睫毛に縁取られた、深く濃い藍色の瞳が隠されている。


――近い未来、永遠に閉じてしまうその瞳…


ちらりとのぞく、鉤爪の刻印。


自分にも、朱い同朋が現れれば、この胸に現れるその刻印――


すり、と固くたくましい胸に頬をすり寄せた。

身体に絡む、颯太の重たい腕。


急激な不安が競り上がり、もしかしたらこのまま颯太が瞳を永遠に閉じてしまうのではないかと思い、天花は颯太の身体を揺すった。


「起きろ…」


ぴくとも起きない。


「起きろ……起きて、くれ…颯太…」


――睫毛が震え、わずかに藍色の瞳がのぞく。


「…ああ…朝か。どうした…?」


ほっと安堵の息を吐くと、布団の中に潜り込み、滲む涙を拭った。


颯太がそれを追って一緒に潜り込み、天花を抱きしめた。


充満する、楽園の花の香り。


「何だ、どうかしたか?」


「…何でもない」


「そんな感じではなかったぞ。…泣いていたのか?」


瞳に涙の雫が溜まっているのを見つけ、颯太は唇でそれを吸った。


「…お前が…このまま目を開けないのではないかと…」


「おい、勝手に殺すなよ。まだ死なない。まだ…死ねない」


――ふわりと颯太の香りに包まれ、天花はその刻印に指先で触れた。


「楽園は…このような香りに溢れているだろうか」


「ああ、そうであってほしいな。…楽園を見たいか?」


天花が躊躇しつつも頷くと、一点の曇りもない澄んだ瞳で笑いかけてきた。


「楽園なら、俺が見せてやれるぞ。天花、お前が俺を受け入れてくれるなら…」


――颯太の長い指が、さらりと朱い髪に触れた。


応えたい。


だが、最後の境界線を越えることができない――


「…もう少し、待ってくれ…それより」


腕を解いて立ち上がると、天花は障子を開けた。


「見せたいものがある」


左腕の腕輪が手首に揺れる。
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