アカイトリ
浴場へ入ると、颯太は天花を下ろして籠を手渡した。


「濡れた服はこの中に」


「……」


まごついている。

颯太は背を屈めて天花の顔を覗き込む。


「どうした?」


「…脱ぐ、のか?」


今までは裸でも平気だったくせに、今は颯太に見られることが恥ずかしい。


「…」


「まあ、そのままでもいいぞ」


再び抱き上げ、湯気に満ちた湯殿へゆっくりと身体を浸してやった。


天花から吐息が漏れる。


「どうだ、気持ち良いだろう」


「ああ…気持ち良いな」


颯太は桧の浴槽の淵に座り、手で天花の肩に湯をかけてやった。


…夏場で限りなく薄く作られた白い浴衣が身体を透かして映した。


視線を感じ、それに気付くと天花が両腕で自身の身体を抱きしめて隠す。


「何だ、恥ずかしいのか?」


「う、うるさい」


見られている――ものすごく。


「見られるのが嫌なら、俺も入るしかないな」


「は?お、い…」


止める間もなく濡れた浴衣姿のままに颯太が入ってきた。


天花は少しずつ距離を取りながら、背中を向けた。


「凪がくれたその腕輪、いつもつけるつもりか?」


「さあ…気が向いたらな」


湯が僅かに揺らぎ、背骨をつっと颯太の指が撫で下ろす。


「や、めろ…っ」


「天花、お前は俺の命のことばかり聞いてくる。それは…俺も、つらい…」


――ずくんとまた胸が痛んだ。

指は再び上がり、天花の浴衣をゆっくりと脱がせていく。


「出会えたと思ったら、俺の命は残り僅かだ。俺だって、別れは怖い」


「…るんだから、仕方ない」


僅かの沈黙の後、颯太は天花の首筋を唇で撫でた。


「やめろ…!何も、考えられなくなる…っ!」


恐ろしいほどの加速力で共に恋へ堕ちてゆく――…


別れを前に、ただそれは空しく、虚ろに――


――天花は浴槽にしがみついた。

だが颯太と真向かいにさせられ、瞳と瞳がぶつかり合う。


力が抜けた両腕が湯を撫でた。


颯太の視線が…撫でてゆく。

そして強く強く抱きしめられて、愛を感じた。


――別れを前に、ただそれは空しく、虚ろに――
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