アカイトリ
間違った行為が終わり、菖蒲は颯太から身体を離す。


「余程…愛しておいでなのですね」


本気にならない颯太。

朝まで共に過ごすことはない颯太。


街ではそう言われつつも、それでも抱かれたいという女は多い。


――颯太は片手で顔を覆い、事の成り行きを改めて冷静にとらえた。


「菖蒲…すまない」


「何をお謝りになるの?わたくしはそれを承知であなたを抱きに来たのに」


割り切り型の女だからこその潔さ。


「もうここには来るな。俺も、会いには行かない」


「…はい。今まで颯太様のお相手をすることができてわたくしは幸せでしたわ」


着物を再び纏い、妖艶な笑顔と共に去って行った菖蒲。


「…どうかしてるな、俺は…」


違う女に天花を重ねて愛した。

侮辱の何物でもない行為を笑って許した菖蒲の心情計り知れず、またそれを颯太も激しく自身を責めた。


浴衣を適当に着てごろりと寝転がる。

…さっき…

天花が傍にいた気がした。


この屋敷には、天花と俺の香りに満ちている。


「…それが余計にまずかったんだな」


高ぶりの天井が見えない怖さ。


菖蒲も危うく失神寸前のところでなんとか我に返り、それでも止まらなかった…


「俺は、天花を壊してしまう…」


愛しすぎるが故に――…


「颯太様?失礼いたします」


蘭が茶を持ってきた。


――が、部屋に充満する特有の香りに気付き、わからない程度に唇を噛み締めた。


「菖蒲様は…」


「帰った」


簡潔に返され、二の句が告げられないでいると、顔を覆った手の隙間から蘭を見て手招きしてきた。


「…お茶、飲んでくださいね」


傍に茶と急須を起き、立ち上がろうとすると、手を握られた。


「しばらく…ここに居てくれないか」


急激に高鳴る心臓。

蘭は精一杯努めて冷静さを装いつつ、澄ました顔で言ってのけた。


「颯太様はほんとに甘えんぼさんですね、そんなんじゃ蘭はお嫁にも行けないじゃないですか」


颯太が目をぱちくりとさせた。


「嫁、か…」


颯太は天井を見つつ呟き、蘭の手を強く握った。


「俺が死ぬまでは傍で働いてくれ。どこにも行くなよ」


本音が漏れる。


蘭はその手をもっと強く握り返した。
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