アカイトリ
颯太の部屋を出てお盆を胸に抱きしめつつ歩いていると、楓と行き当たった。


「…どうした?」


蘭はかなり背の高い楓の遥か頭上にある顔を見つめた。


無駄に整ったその美貌――


「楓…ちょっと時間ある?」


「え…?」


蘭は返事を待たず強引に台所へ引きずり込むと、鍵をかけてにっこり。


「何だ、手篭めにでもする気か?」


普段の蘭ならば笑い飛ばすのに、ぽろぽろと涙が頬を伝ってゆく。

楓は慌てて椅子から立ち上がると、どうしていいかわからずにそわそわ蘭の肩を抱いてらいいのか焦った。


「颯太様が…」


「…?」


楓が言葉を待っていると、蘭がすがりついてきた。


「あの人の命はあとどれくらい残されてるの?!」


――悲鳴のような号泣。


それにはただ楓も歯を食いしばって答えるしかない。


「…持って、あと十数年らしい」


「そんなに短いの…!?」


わあ、と泣き崩れた蘭の細い肩にそわそわしつつ手を置いた。


「天命だと、おっしゃった。蘭、俺たちにはどうすることもできないんだ」


碧い鳥の一族最期の犠牲。


現当主の隼人よりも早くこの世から居なくなってしまう、薄命の颯太――


「どうすれば…どうすればもっと長く生きることができるの?!あたし…颯太様の居ない人生なんて想像できない…!」


「それは俺も同じだ…」


不器用な楓はすがりついて泣く蘭をどうにかあやすのに精一杯だった。


「何か…言われたのか?」


「…俺が死ぬまでどこにも行くなって…」


「ああ…薄命で死ぬことを幼い頃から受け入れている颯太様らしい」


“どうすれば長く生きることができるのか?”と考えるよりも、“自分を最期の犠牲としてこの重い使命に終止符を打つ”と決めていた颯太。


朱い鳥や、黒い鳥と出会ってもなお、延命の方法を彼等から聞くことはない颯太。


「…俺たちは、その時が来るまで精一杯お仕えするのみだ。それしか、できないんだ…」


声を上げて泣く蘭の、はじめて抱きしめたやわらかい身体は颯太を失う恐怖に震え、考えまいとしていた楓の心をも枯れ葉のように揺らした――
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