アカイトリ
昼になっても天花が部屋から出てくる様子がない。

多大な引け目があるため、二の足を踏んでいた颯太だったが、だんだん心配が不安に変わり、天花の部屋の前に立った。


「天花、起きているか?」


…返事は、ない。


ゆっくりと障子を開けると、机に向かって一心不乱に何かを書き散らしていた。


畳に散らばった紙には、得体の知れない文字のようなもの。


颯太はかさり、と音を立ててそのうちの一枚を拾い上げた。


「新しい字でも作るつもりか?」


…話しかけても振り向かない。


ただただ、背中が怒りに満ちている。


「どうした、機嫌が悪いな」


「うるさい。話しかけるな」


素っ気なく突っぱねられたが、気にすることなく隣に座った。


横顔もやはり、怒っている。


「怒っている理由を聞かせてくれ」


天花の元々目力のある瞳にさらに怒りが滲み、一瞬口を開いたが、思い止まり、また閉じた。


「…放っておいてくれないか」


「そうはいかない。俺が何かしたか?」


…沢山したけれど――


天花の筆が止まり、小さく呟いた。


「…あの女は誰だ…?」


「…!」


目を見張ると、天花は無造作にまとめた朱い髪を高く持ち上げた。


「うなじが綺麗な人だったな。お前はああいうのが好きなのか?」


最後らへんは語尾が震えてうまく喋れなかった。


颯太は無言のままに天花を見つめた。


朱と碧の交差――


「やはり見ていたか。そんな気はしていた」


「気は済んだか?遊び人のお前にはさぞ近頃は精が溜まっていたことだろう?」


天花が早口でまくしたてる。


そんな天花をずっと見つめる颯太。


耐えられなくなったのは天花の方だった。


どんと颯太の胸を叩いた。


「わたしが…わたしが、お前をそうさせたんだな…?」


「…天花…」


痛々しげに俯く颯太。

だが天花は止まらなかった。


「わたしが拒むから…わたしが受け入れられないから、あんなこと…!」


力なく何度も颯太の胸を叩く。


――あの女は激しく愛されていた。

そうされたいのに、見ているだけだった…


「同じ色に、生まれたかった…!」


吐き出すように叫ぶと、颯太がこれ以上はないほどに強く天花を抱きしめた。


愛したい――

愛されたい――

想いが重なる。
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