もしも君が助けてくれたら
「夏は俺のことを馬鹿にしたんだよ」

「馬鹿になんかしてないよ!」

「だけど、憎たらしいあの目は許せないなぁ」

「だけど・・・、ダメだよ・・・」

「なんなら別にお前だっていいんだよ。とにかく殴らせてくれりゃぁな」

その瞬間、頬に鈍い痛みがあった。

口の中が血の味でいっぱいになる。

こんな時だけど、懐かしいと思った。

昔、小さい頃にもよくこんなことがあった気がする。

だからだろうか。

なぜか倒れなかった。

無意識に足を踏ん張って倒れないように頑張っていた。

「お前も・・・、生意気になったなぁ・・・。昔はすぐにビービー泣いてたくせによ」

お父さんは煙草を取り出し、ジッポで火をつけた。

「お父さん、今すぐ出ていって」

出ていってほしかった。

もう、この人は昔の狩谷ではないと思った。

昔みたいには戻れないと思った。

分かっていた。

お母さんとお父さんが離婚したときからきっちり動いていた歯車が崩れていったことも。

「お父さんなんか、父親じゃない。家族じゃない。だから出ていって」

お父さんの目が血走った。

くわえていた煙草を指に挟み、その煙草を私の腕に押し当てた。

ジュッという音がして、燃えるように手が一瞬にして熱くなり、表現しがたい痛みが腕に広がった。

「・・・つっ!!」

顔を歪めた時、夏がお父さんに突進した。

お父さんがぐらりと傾きかけた、が、お父さんも伊達にモデルをやっているわけがない。

きちんとジムに行ったりして筋力をつけている。

お父さんは夏をはねのけた。

その衝動で夏はテーブルの角に頭をぶつけ、額から血が流れ出た。

その光景を目にした瞬間、寒気がした。

夏が、夏が死んでしまう。

そう思った。
< 35 / 44 >

この作品をシェア

pagetop