蠱惑な、異名。
そうして時折の逢瀬は当たり前のように繰り返されてきた。
そしてそれは、いつまでも続くと思っていた。
時計に目をやると、約束の時間は間もなくだった。
逢いたい、逢って欲しいと、駄々を捏ねた。
今日、この場所で、絶対にと。
こんな風に初めて我侭を言ったのは、どうしても今日じゃないと駄目だったから。
数ヶ月前図書館で見つけた、11年前の新聞記事。
数年ぶりに海外から帰国したばかりの女性が、空港からの帰宅途中に交通事故で死亡したと書いてあった。
小さな枠に収まった、沢山の事件や事故の中のひとつにすぎない出来事。
街頭を彩る七夕のお飾りに目を奪われた運転手が、ほんの少しハンドル操作を誤ったことが原因だった。
その女性は彼と同じ苗字で、そして私と同じ名前だった。
あの日から彼はずっと夢の中を生きてきたのかもしれない。
その記事を読みながら、私はそう思った。
夢の中に居続けることが、本当に彼の幸せなのか?
そう思い始めたら不安でたまらなくなった。
私自身の存在が、彼を慰めると同時に彼をこの上なく苦しめているのではないか。
どこかで彼を現実に戻してあげることが、私が今彼に出来る唯一なのかもしれない。
もし、彼が私を私として愛してくれていたら、私はこのままこうしていれたかもしれない。
そうでないことだけは、哀しいけどこんな私にも今は解る。
それだけ大人になったのだ。