蠱惑な、異名。
出逢ったばかりの頃に七夕を見に行きたいとせがんだことがあった。
なのに、仕事の予定が合わないからと相手にしてくれなかったあの人。
不貞腐れて唇を尖らせてそっぽを向いた私を置いて、人混みに消えてしまった。
迷子になったようで心細くなってあの人の名前を呼んで立ち尽くす私の肩を抱いて、馬鹿だなぁと笑いながら差し出した包み紙には、小さな根付。
陶器の兎が可愛くて、この根付が似合う和服姿になりたいと思ったあの日。
あの人が初めてくれた大切な想い出の品。
七夕を見たいということが、どんなに彼にとって酷いことだったか。
知らなかったとはいえ胸が痛い。
それなのに、彼は私を気遣ってこんなに素敵な贈り物をくれた。
つるりとした兎はまだ赤い目をしているけど、もう私は大丈夫。
根付の紐を帯からそっと外して、封筒の中に入れた。
そして封をする。