週末の薬指
* * *
翌朝、普段よりも早起きした私は、眠い体をどうにかひきずって、それでもちょっと嬉しさも抱えながら夏弥のマンションを訪ねた。
夜明けから少し経ったばかりの部屋に突然訪ねるのは気がひけるけど、まだ寝ているかもしれないと思うと電話をするのもためらってしまった。
とりあえずマンションの下から電話してみよう、そう思いながらやってきて。
飛行機の時間って何時か聞いてなかったな
そんな事を思いつつ携帯を取り出した。
起きてるかな、と思いながら夏弥の携帯を鳴らすと、何度目かのコールの後、声がした。
『もしもし、花緒?』
「うん。おはよう」
『おはよう。どうした?こんな早く……っていっても6時過ぎてるんだな』
「うん、寝てたよね、ごめん。あのね、えっと、おばあちゃんの作ったお稲荷さんを持ってきたんだけど」
『え?お稲荷さん?……持ってきたって、どこに?』
「……夏弥のマンション」
『は?今、来てるのか?俺のマンションにいるのか?』
それまで寝起きのようなゆったりとした声だったのに、突然大きな声で驚いた夏弥。相当びっくりしてる。
「今、ロビーにいるんだけど、上がってもいい?」
夏弥の反応に笑いながら、そう聞くと、
『すぐに上がって来い、合鍵持ってるだろ?』
慌てたような声が返ってきた。
よっぽど驚いたのか、ばたばたと部屋を動いてる音もする。
きっと今まで寝ていたに違いない。
出張前という事で、夕べ部屋に帰ったとメールをもらったのは数時間前。
無理矢理起こしてしまったと思うと申し訳ないけれど。
「すぐに行くね」
夏弥に会いたい気持ちの方が勝ってしまって、会いに来てしまった。
おばあちゃんがたくさん作っていたお稲荷さん。
『瀬尾さんに持っていってもいいよ』そう言ってくれたおばあちゃんの言葉に甘えて、というかそれを口実に会いに来てしまった。
週末まで会えないなんて普通の事だけど、今日はどうしても会いたかったから。
出張だとはいえ、沖縄に行ってしまうし、美月梓と二日間一緒にいるから、夏弥が眠くても、会いたかった。