週末の薬指
夏弥の部屋があるフロアに着いて、廊下を歩いていると、夏弥の部屋のドアが開いて夏弥が姿を見せた。

「おはよう」

何度か見たグレーのスウェット姿の夏弥は、嬉しそうに笑って私を待っていた。

その笑顔にほっとした私は、ほんの数メートルを急ぎ足で歩いて、ぼすっと夏弥の胸に飛び込んだ。

ぎゅっと抱きしめてくれる腕が力強くて、鼓動がとくとくと聞こえることに安心して。

「ごめん、こんな朝早く」

夏弥の胸につぶやいたけれど、その声はくぐもっていて、夏弥に聞き取れたのかはわからない。

そっと見上げると、夏弥の顔が近づいてきて、熱い唇が重なった。

「ん……ふっ。夏、や……」

後頭部を抑えられて、私の腰にも腕が回されて、夏弥の体に固定されてしまった状態で私の唇を貪る夏弥をひたすら感じた。

差し入れられた舌を追いかけて、夏弥に負けないように絡ませあって。

手にしていた荷物を床に落とした音に気づいたけれど、そんな事に構う余裕もないまま、私も夏弥の体に手を回した。

そして、それだけじゃ終わらない予感に体中が震えた。

「部屋、入ろう」

熱を秘めた瞳を私に向けた夏弥は、私の背中を抱くように部屋に入った。

「あ、荷物、落ちてる……」

夏弥は、私の足元に落としてしまった荷物を手に取ると、何かに急き立てられるように私を部屋に押し込んだ。

部屋に入ると、ずんずんと私の手を掴んだまま奥に進んで。
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