週末の薬指
三人でランチを食べながらの話題はやっぱりシュンペーの結婚。

シュンペーは、彼女との結婚も子供の事も諦めるつもりはないらしく、いざとなったら彼女のお父さんと話をつける、とも言い切っていた。

「話をつけるって、どうするの?彼女をかっさらって逃げるとか?」

弥生ちゃんが、サンドイッチをほおばりながら尋ねると、くすりとシュンペーは笑った。

「かっさらうのもいいかもしれないですね。なんせ、彼女は俺を自分の家族のごたごたに巻き込まないように必死ですから。誰からも干渉されない所に二人で逃げるのもいいですね」

「あ、逃げたり姿をくらますのなら、花緒の仕事に影響が出ないようにきっちりと仕事は区切りをつけてからにしてね。今でさえいっぱいいっぱいなんだから、シュンペーの尻拭いなんて無駄な事をしなくて済むように、よろしくね」

にっこりと笑う弥生ちゃんの言葉は、冗談には聞こえない。

本当に私に迷惑をかけるなと、そう思っているのがわかる。

その思考回路に驚いて、何も言えない。

何も言えないのはシュンペーも同じようで、私に視線を向けると、茫然と瞬きをしているだけ。

「えっと。逃げるとか、姿をくらますとか、私はおすすめしないよ……。
あ、仕事が増えるから嫌とかじゃなくて」

「わかってますよ。木内さんが言いたいことはわかってるし、俺だって、本気でかっさらって逃げるなんてしようとは思ってません……。今はまだ」

小さく息を吐きながら、苦しそうな言葉が出てくる。シュンペーの心情は本人にしかわからないけれど、事の重大さだけは、わかる。
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