ゼロの行方
第三章

ウィルス

レイカとロボット達は感染症の原因となる因子を探していた。因子を特定できなければ治療に必要なワクチンさえ作り出すことが出来ないからだった。
 現在、患者の様態は安定していると言っても良かった。出血もある程度治まっているし、体温も下がる傾向にあった。だが、今行っている治療は対処療法に過ぎず、根本的な部分に触れた治療ではなかった。だからいつ考慮子が失われるかも解らなかった。
 このままで良いはずがない、医療室にいる人間とロボットは誰もがそう思っていた。
 けれども、この疫病の因子について最近なのかウィルスなのかさえ解ってはいなかった。エボラ出血熱に似ているといってそれと同じとは限らなかった。だが、もし同じだとすれば、これがエボラの亜種である可能性が高くなってくる。そうであって欲しい、レイカはそう思っていた。
「どう、病原体は見つかりそう?」
 レイカはインカムを通じて透明な隔離壁の向こうに問いかけた。隔離壁の向こう側ではロボット達がそれぞれの作業を行っていた。検体を盗るもの、点滴など、対処療法に必要な処置を行うもの、検体を分析するもの、それぞれがそれぞれの作業に没頭していた。
「いいえ、今のところ発見できていません」
 エレナの抑揚のない声が返ってくる。彼女の左手には先ほど採取された検体が試験管に入ったままで挿入され、右手はコンソールにあるパッドの上に置かれていた。こうすることで不燃にあるマザーコンピューターのデータベースにアクセスしているのだ。
 今、彼女は医療データーベースの中の全ての最近、ウィルスを検索していた。そのため、どうしても時間がかかっていた。
「そう、時間がかかるわね。エレナ、検体をエボラウィルスと比較してちょうだい」
 レイカはそうエレナに命じた。確証がある訳ではなかった。たとえ症状が似ていても病原体が同じだとは限らない。突然変異を起こしている場合もある。それの細菌兵器だとすれば尚更だった。
 エレナはレイカの指示通りデータベースと検体を比較した。 

「一致、75%の確率」
 データベースと照合した結果をエレナはレイカに伝えた。
 レイカの読みは当たった。
 これで患者の治療が出来る、レイカは早速次の指示をエレナに与えた。
「エレナ、すぐに検体を高速培養に回して」
 二十一世紀前半頃は病原体からワクチンを生成するまでに数ヶ月かかっていたのだが、この高速培養の開発によってワクチンは一週間程度で生成することが可能となっていた。 それでも時間との勝負であることに代わりはなかった。患者の状態は安定しているとはいえ、病の進行が止まっている訳ではない。いつ彼に死が訪れるか解らないのだ。

 ウィルスが特定されて一週間後、ワクチンが完成した。レイカは早速ワクチンを患者に投与した。
 しかし、期待に添えず患者は死亡した…。。
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