【完】Secret Story ‐笠井 龍輝‐
「先輩と会ったのは、あの日が最後だったんだ。
電話はしょっちゅうしてたけど、お互い仕事が忙しくて。
…先輩の会社はどんどん成長していって、仕事以外の時間なんてほとんど無かったと思う」
……うん。
確かに親父は、いつも家に居なかった。
たまに帰ってきたと思えば、お袋と口喧嘩。
親が喧嘩してるとこなんて見たくなかったし聞きたくなかったから、いつも優の手を引っ張って押し入れに隠れてたっけ。
…そして二人の喧嘩が終わった後、いつも押し入れに来るのは親父だった。
「ごめんな」って言った寂しそうな顔を朧気に覚えてる。
「奥さんと別れたことや、龍輝や優ちゃんのことも電話で聞いて…凄く胸が苦しくなったのを覚えてる。
奥さんと結婚した時や、龍輝や優ちゃんが生まれた時…、凄く幸せそうに笑ってた人が、なんで苦しまなきゃいけないんだろう?ってずっと考えてた。
…他人がそんなこと考えるなんて、“余計なお世話”以外の何物でもないけどね」
苦笑する直人さん。
だけど、言葉はゆっくりと続いていった。
「先輩は相変わらず忙しかったけど、それでも前よりもいっぱい電話をくれた。
“龍輝の工作が誉められた!!”とか“龍輝がバレンタインチョコ12個も貰ってきた!!”とか、自分のことのように笑ってたなぁ」
…親父、直人さんにそんなこと喋ってたのか。
まるで子供、だな。
でもなんか…、親父らしい気がする。
いつも俺を見る目が優しくて、ちょっとしたことでも「凄いじゃん!!」って大袈裟に喜んで、おっきなケーキ買ってきたりしてさ。
だけど俺も親父も甘い物はあんまり食えなくて、結局いつも食べきれなかったんだよなぁ。
それでも親父は「お前のお祝いだから」って胸焼け起こしながらも笑って食べてたっけ。
…ほんと、馬鹿でアホで間抜けな、良い親父だった。