海宝堂〜海の皇女〜
黙っているシーファ達にシドは続ける。

「俺は依頼を受けて殺しをする暗殺屋でな。昨日の奴らは金で雇って情報を集めさせてた奴らの一部だ。」

「一部?他にもいるということか?」

「ああ。ま、正確にはいた、だな。あんたを見つけりゃもう用はない。
殺すのは俺一人の楽しみだからな。」

背中を冷たい汗が伝っていった。目の前の男は異常だった。仕方なく、ではなく、楽しんで、人を殺せる人物を目の当たりにするのがこんなに怖いものかと思い知らされた。

「ここで死ぬわけにはいかないわ。残念だけど帰ってください。」

「ほう…流石に度胸はそこらの女とは格別だな。
トイス国王がどうしても、と、跡継ぎに推すわけだ。」

「…何故、あなたがそんな事を?
―――――誰が暗殺の依頼を?」

神妙な面持ちで投げ掛けた質問をシドは鼻で笑った。

「あんたほど聡明なら、もう解っているだろう?だから、そんな泣きそうな顔をしているんだろう?」

シーファの手が震えながらガルの服を掴んだ。そうしないと立っていられなかった。…もう、答えは解っていた。

「そう…その人だ。あんたが生きてると都合が悪いそうだ、トイス王国、リタ・トイス王妃とカイル・ド・トイス王子がな。」

聞き終わると同時にシーファの膝は崩れ落ちた。ガルの服を掴んだまま、呆然と甲板を見つめている。
王妃の名は辛くも予想通りだった…しかし、弟の…カイルの名をここで聞くのは全くの予想外だった。

身体中の震えが止まらなかった。

「ちょっと待て!シーファを殺す必要はねえぞ!」

リュートがシーファの前に立ち、言った。

「坊主、子供が割り込む話じゃないんだよ。」

「坊主でもねぇし、子供でもねぇ!
シーファは国には帰らねぇっ!殺さなくても、王位はそっちにやるって言ってんだよ。これで話しは終わりだ。」

リュートが胸を張ると、シドは首を振ってため息を吐いた。
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