海宝堂〜海の皇女〜
その後の船旅はとても順調だった。
船旅と言っても昼頃にはトイスの形が見えていたのでそんなに長い距離ではなかったのだが…

「見えた、見えたー!あれがトイスだよな?」

「ええ。」

「えっと…あっちが港よね?」

ニーナが海図とにらめっこしながら舵をきった。
と、横からシーファが海図を覗く。

「ここが、港?じゃこっちは?」

シーファの指差す箇所にも港があったが、それは城下町の方で、商業船の港だった。
ニーナにそう聞いてシーファは少しだけ考えると商業用の港を指差した。

「こっちにしましょう。」

「どうして?城に行くなら…」

ニーナの疑問はもっともだった。ニーナにしてみれば、早く国のゴタゴタを解決して神殿に向かいたいのだ。
しかし、シーファは首を横に振った。

「あっちに着く頃には日も暮れかかる、そんな時間に城の港に船を停めるなんて兵が飛んで来るわ。
早く終わらせたいけど、大事にはしたくないの。」

暗殺騒ぎなんて国民の耳には入れたくない…そう言われると従うしかなかった。

ニーナが了承し、舵を商業用の港に向けていると、シーファが海図をまじまじと見ていた。

「何?なんかおかしい?シーファの持ってるのと違うとか?」

なら、見せて!とニーナの目が輝いた。
海図の表示が違っていたりすると、そこに何かが隠されていたりするからだ。
海宝堂としてらは黙っていられない!
しかし、返ってきた返事は驚くべきものだった。

「ううん、そうじゃなくて…海図って見たの初めてだったから珍しくて…」


「………………は?
ごめん、私の聞き間違い?海図を見たことが無いって言ったの?」

シーファはこくりとうなずいた。

「冗談でしょ?海図は海を旅するのにぜっ――――――――――――――――――たいに欠かせない物なのよ!?それを見たことがないだなんて…
シーファ。あなた、トイスからテラカイズまでどうやって行ったの?
まさか、商業船に黙って乗り…」

「違うわ!ちゃんと自分で船を用意した。
テラカイズ島はトイスから真っ直ぐ南だから、そのまま南に進んだだけよ。」

ニーナが驚いているのが全く理解できないシーファだった。
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