海宝堂〜海の皇女〜
「全く…酷い目にあった…」

ガルはようやく一息つけたとソファーにどっかりと腰かけた。
キッチンではポムがスープの準備をしている音が聞こえる。
ポムの家は周りと同じ、レンガ造り。その中でも古くからある家のようだった。
いい雰囲気の家具が並び、窓際には花が飾られていた。

「みんな、シルフェリア様が戻ってこられて嬉しいのじゃよ。
最初にじゃがいもを落としたガーラは、シルフェリア様が隣国の修道院に行かれたと聞いて3日ほど家から出られなかったほどでな…」

「…ちょっと待てよ。修道院?どういうことだ?」

リュートが首をかしげるのも無理はなかった。当のシーファでさえ目を丸くしている。

「そういうことになってたって事でしょ?
失踪や家出じゃここの人達、パニックになりそうだし…」

「戻ってくるという、王の願いだろうな…」

ガルがそう続けると、シーファの表情に影がさしたので、ニーナは慌てて壁際のチェストの上にある写真立てに手を伸ばした。

「ポムさん!この写真の女の人は奥さん?綺麗な人ね。今晩、急に泊まることになって迷惑じゃないかしら?」

しかし、これは完全に逆効果だった。シーファの顔がますます暗くなる。
キッチンからポムが出てきた。

「わしの女房は10年前に死んだよ。
気のいい女じゃった。いつも家に花と笑顔を咲かせておった。」

「うん…とても優しい人だったね。もう、10年か…
そうだ、ジムは?」

「ジムって、誰だ?」

「ポムじいちゃんの息子さん。3年前は確か…」

「まだ、護衛兵の1人でしたな。
今は護衛隊第一班の班長を任されておりますが、まだまだ未熟者で…」

シーファの顔が一気に明るくなる、そして、手を叩いて喜んだ。

「すごいわ!3年で班長なんて。未熟どころか優秀よ!
そりゃ、護衛総隊長さんに言わせればまだまだよね。」

「止めてください。昔の事です。」

笑顔になったシーファにニーナはほっとするが、なんとも話の内容が掴めない。3人揃ってポカンとしていると、

「前に話したよね?私の武道の師範。ポムじいちゃんなの。」

この島、最大の驚きだった。
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