海宝堂〜海の皇女〜
ポムの家では騒ぎは収まりをみせず、仕方なく場所を移すこととなった。
街の中心に広場があり、シーファがそこに移動するとまるでお祭りのように人々は輪を作り、シーファはその1人1人と会話をし、笑い声が途切れることが無かった。

「シーファ、好かれてるんだな…」

「みんな、嬉しそうね。…シーファも…」

囲まれるシーファの笑顔を遠く押し潰されない場所でリュート達は見ていた。
みんなの幸せそうな顔は、こっちも見ていて自然と顔がほころぶのだが、ニーナは少し目を伏せた。

「でも…行く、つもりなのよね…」

と、ニーナの頭を大きな手が包んだ。

「すごい迫力だな。」

明るい声でポムと片付けをしていたガルがやってきた。
ニーナははっと口をつぐんだ。しかし、ポムには聞こえていないようでほっとした。

「いや、あんた達、シルフェリア様を連れてきてくれてありがとう。
こんな活気に溢れた街は久しぶりじゃ。」

「シーファ…とてもいいお姫様だったのね。」

「そうじゃ、王族の姫様といえば近寄りがたいものじゃが、シルフェリア様はご自分からわしらに話し掛け、近付いてきてくださったのじゃ。
かなりのおてんばでな、しょっちゅう城を脱け出しては街に来て、老人の話し相手や子供達と遊んでくださったものじゃ。」

ポムは懐かしさに目を細めて語った。

「シルフェリア様はこの国の宝じゃよ。
その笑顔にどれほどの人が癒されたことか…」

「そう…宝…」

何も言葉が出てこなかった。
シーファには覚悟がある、国を捨てる覚悟が。だから、戻って良かったとも言えず、真実を言うことも出来なかった。

3人が黙ったままシーファを見つめていると、ポムが真剣な顔つきで目の前に立った。

「じゃから…シルフェリア様を連れていかんでくれ。」

「!じいさん、知ってたのか?」

「……やはり、シルフェリア様はこの国を出るおつもりなんじゃな。」

リュートは2人に睨れて、小さくなった。
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