海宝堂〜海の皇女〜
「頼む、このまま姿を消してくれんか?悲しまれるじゃろうが…わしらがずっと側におる。」

頭を下げるポムにガルは首を横に振った。

「すまない、俺達にも目的がある。なによりあいつがそれを望んでいる。」

「そうか…今のは忘れてくれ…」

ポムは笑ってそう言ったが、その顔は寂しそうだった。

―――――――――――――――

シーファは街の人達に囲まれて、いなかった3年間の事を聞いていた。
嬉しい楽しい出来事もあったが、不満、不安も聞こえてきた。

「シルフェリア様が帰ってこられて本当に良かった…
修道院に行かれたとはいえ、王のお寂しそうな顔は見ていられなかったもの。」

「そうね…
カイル様はシルフェリア様の穴を埋めようと一生懸命だったらしいけど、街には一度も来られたことはないし…私達の気持ちをわかって下さるかしら…?」

輪の外で密かに交わされる会話はこの国の行く末への不安だ。
みんなシーファの前では笑顔でいたが、シーファと話した後だと余計に不安が大きくなるようだった。

この国から出ればそれで終わる、そんな考えは甘かった。
今まで、ここでこんなにたくさんの人達と関わってきた、それは自分と同じようにみんなの心にも残る。
その関わりを自分の望みと天秤にかけて、捨ててしまっていいものだろうか…?
血は正統ではなくとも、この国に育ててもらった恩は大きい。今度はこの国の為にそれを返していかなければならないのではないだろうか?

「シルフェリア様?お気分が悪いのですか?」

「え?あ…ううん、大丈夫。ごめんなさい。」

ガーラが心配そうに覗き込むと優しく笑う。そうですか?とガーラが背を向けると、ふるふると頭を振った。

(やっぱり…ちゃんと、話さなきゃ…私は…)

ぱんっ!とガーラが手を叩いた。

「さあ!今日はこれでおしまいよ!シルフェリア様は本当にお疲れだわ。」

「ガーラさん、大丈夫…」

「いーえ、まだ私のケーキも召し上がってないんですし、もうお休みください。
私達にお付き合いくださってありがとうございます。」

ガーラは人差し指を立ててウインクをした。
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