海宝堂〜海の皇女〜
まだ残されていた自分の部屋、出ていった時と何も変わっていなかった。

リュート達を探して歩いたがメイドの一人に、他の部屋でもう休んでいると言われ、そっとしておくことにした。
それから明日の戴冠式で着るドレスの丈合わせや何やらで夜まで3人には会えなかった。

シーファは毎日海を眺め、憧れを募らせていた窓を開けた。
あの頃と変わらない風景がそこにあった。

「…明日から何もかもが変わる…」

そう呟くとドアがノックされた。

「はい、どうぞ。」

ドアの向こうから姿を現したのはリタだった。

「シルフェリア…」

「母上…」

真っ直ぐなシーファの目にリタはそれだけで体を震わせながら口を開いた。

「あ、あの事は…気の迷いだったのです…
あの男に依頼をした時の私はどうかしていました。
ただ、あの子に、カイルに王になってほしくて…
今は、心から後悔をしています…だから…」

怯えきった目ですがるように言うリタはカイルが言うように弱々しく、マーリンが言うように何かを企てようとしているようには見えなかった。

「もう済んだことです…父上も何も言わなかったでしょう?
お心を軽くして、これからはカイルを支えてやってください。」

シーファの言葉にリタは涙を流して頭を下げた。


リタを見送ると久し振りの自分のベッドに横になった。
ベッドの脇には明日のドレスが用意されている。
そっと触れるとその柔らかな感触が手に伝わった。

「ドレスを着るのも明日で最後。」

リュート達、3人も服を用意したと聞かされて、そっちの方が楽しみだとシーファはくすくすと笑った。
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