海宝堂〜海の皇女〜
翌朝、いつの間にか寝てしまっていたシーファはドアをノックするおとで目が覚めた。
返事をすると一気にメイド達で部屋が一杯になった。
髪を整えられ、体を補正され、あっという間に『シルフェリア王女』が完成した。

メイド達はその美しさに感嘆のため息を漏らした。

そこへ執事長のレイトンがやって来た。今日の髭はいつにも増してピンと立っているようにみえた。

「シルフェリア様…お美しゅうございます。」

「ありがとう。
レイトン、私と一緒に来た人達は?もう、用意できてる?
式の前に会いたいんだけど…」

シーファがそう言うと、レイトンは小さく首を振った。

「彼らはもう席についているはずです。
会うのは式の後でないと無理です。
では、参りましょう。」

レイトンに促され、シーファは王座の間へと長い廊下を歩いていった。
廊下にはメイド達が規則正しく並び、頭を下げてシーファを見送った。

ふと、シーファの頭に違和感がよぎった。
これじゃ、まるで…

「シルフェリア様、お進みください。」

突き当たりのドアが開けられ、王座の間が目の前に広がった。
そこにはずらりと兵士達が隊列を組んで並んでいた。
一歩足を踏み出すと、兵士は一斉に手を胸に置いた。

赤い絨毯の上を歩いてたどり着いたのは、王の御前。
正装したマーリンに両脇には同じく正装したリタとカイルが並んでいた。

「………これは、どういう…」

シーファのその位置は本来、カイルがいるべき場所。
戴冠を受ける者のいるべき場所だった。


『これより!シルフェリア王女様の戴冠の儀をとりおこなう!』

進行役の声が王座の間に響いた。

マーリンの心は何一つ変わってはいなかった。

シーファはリュート達の姿を探す。
3人は昨日、王座の間に入ってきた時にくぐったドアの前に立っていた。
正装なんかしていない。昨日と同じ服のままだった。

3人はシーファの視線に気付くとそっと目を伏せて、背を向けた。

「いやぁっ!待ってっ!私も一緒に…っ!」

シーファが叫びながら追いかけようとするのを止めたのは、誰でもない、マーリンだった。

「行ってはならぬ!お前はこの国の王となるのだぞ!」
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