海宝堂〜海の皇女〜
シーファはマーリンの腕に抱かれながら泣き続けていた。

カイルはその姿から目を離す事が出来なかった。

花嫁衣装のような美しいドレスに身を包んだ、尊敬すべき姉が、そのドレスとは全く正反対の顔をして泣いている。

シーファがいなくなり、毎日、母に王になるのは自分だと言われ続けてきたが、全く自信など無かった。
だから、シーファが戻ったと聞いたときは、本当に嬉しかった。

しかし、シーファから聞かされたシーファの出生の真実。その辛そうな顔…
シーファには、今までの生活を捨ててでも、手に入れたいものがある。
自分には…?そんなものがあるか?

マーリンにシーファを騙して戴冠式を行うと言われた。
血の繋がった実子なのに、期待されていない…
心が鉛のようになった。


『本当にこのままでいいのか?』


カイルの心が問い掛ける。


「父上っ!
もう、嘘はやめましょう。」

「カイル…?」

シーファが涙で崩れた顔で見上げる。

「姉上…いえ、シーファ。あなたの役目は終わりです。もうこれ以上、この国に縛られることはありません。」

シーファの肩に優しく触れるカイルの手をマーリンが払いのける。

「カイル!さがっておれ!バカな事を言うでないっ!」

「父上…私だって姉上が大好きです。
しかし、姉上が戻ってからまだ一度も大好きな姉上の笑顔を見ていません。」

シーファの腕を掴み、立ち上がらせる。

「血は繋がっていなくとも、あなたは立派な私の姉上です。
姉上には一番の幸せを掴んで欲しい。
だから…行ってください。」

その瞬間、マーリンが立ち上がり、カイルの頬に拳をぶつけた。
カイルは後ろに倒れ、王座の間はどよめいた。

「黙れ!カイルっ!お前は…」

「王位ならば私が継ぎますっ!
それがあなたの真の息子である、私の義務だ!
姉上に夢があるように、私はこの国を守ると誓いますっ!」

「カイル…」

カイルの決意に満ちた言葉が王座の間に響き渡った。

「姉上っ、行ってっ!彼らと一緒に!
急いでっ!」

シーファは力強くうなずくと、ドレスのまま走りだした。
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