エスメラルダ
  王太子であるという驕り故に断られるはずがないと思っていた贈り物。
 羞恥に、フランヴェルジュの頬に朱がさす。
 エスメラルダは溜息を微笑で隠した。
 わたくしはそんなに安い女ではないわ。耳飾りの一つでわたくしの歓心を買えると思うなんて、なんておめでたい脳味噌の持ち主でいらっしゃるのかしら?
 そしてエスメラルダはフランヴェルジュの頬が紅潮している事に気付き、後悔した。彼女は、自分への怒り故に頬を染めたのだと思ったのだった。
 夜会など、死んでも出るのではなかったわ。
 出たくなかったというアピールが喪服なのだけれども。
 それでも、来るべきではなかった。
 曲が変わり、エスメラルダは第二王子ブランシールの腕に抱かれた。
 ブランシールは寡黙な人柄だった。だが、エスメラルダはブランシールを好ましく思う。
 フランヴェルジュは、疲れる相手だった。
 それが、エスメラルダと同じく炎の気性をもつが故であることにまで考えは及ばなかったが、ブランシールにはくつろげる何かがあった。
 それに、ブランシールは懐かしい人に面影が酷似していた。
 ブランシールの長い銀髪。首筋で紫のリボンで縛り、揺らせている様。あの方の銀髪は短かったけれども、色はまさしく同じだ。
 そして氷のような青い瞳なのに垣間見える情熱。赤い炎より青い炎の方が温度が高いのだと教えてくれたのはランカスターだった。
 あの方を思い出すわ。
 実際、業火に焼かれるような情熱に、エスメラルダを翻弄させたあの人。アシュレ・ルーン・ランカスター。
 記憶は甘いだけではなかったけれども。
 それでも大切な記憶だった。
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