妖狐の姫君



歩いて辺りをちらちら見回しても何も感じない。




人の気配がないし…。



その矢先、ビュッと勢いよく風が入ってきてそれは一瞬のこと。



体がつるに巻き付かれた感覚で風に流されるようにおくの部屋まで飛ばされた。




扉は閉まり私は受け身もとれず顔から突っ込んで畳に叩きつけられる。



「無様だな」



低く艶めかしい声がした。


なんなの…



突然の出来事に応対できなかった私は顔を上げる。


綺麗な男。



銀色の髪に細いブラウンの目に豪華に着飾った着物から出る色白い腕。



シャープな顎のラインに薄く引かれた眉毛もしゅっとした鼻筋もすべてにおいて浮世離れしている。



首をまげてみせる横顔もその見下したような瞳も綺麗だ。



惚れ惚れするような完璧な顔に言葉が出ない。



さっきの声はその薄い唇から出たものか。




「………」




「何事かと思えば女1人。しかも人間の娘か」



敷居が一段高いところでくつろぐ恐らくこれまた妖怪の頭領、チカゲは言う。


後ろの金色の屏風よりも彼の銀色の髪のほうが際立ってみえた。



きっと彼の存在感のほうが絶大だから。


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