風味絶佳~嘘からはじまる2人の関係~
だけど、そんな私のことなんて彼はお構いなしで、

「上原、すまんが先に帰らせてもらう。
俺のための送別会なのに申し訳ない。
後の収拾お願いして良いか?」

今日の幹事である上原先輩に話しかけた。

「それは良いですけど、何て説明しましょう?
俺一応、香坂に2人の事話すなって止められてるんですけど・・・。」

先輩が皆に聞こえない様に、小声で安曇さんに尋ねる。

「本当のこと言ってもらって構わない。
それに、この状況じゃ今更だろう。すまんが後を頼む。」

私は2人の会話に反論する気力も残っていなかった。

それに、彼の言う通り今さら弁解しても・・・無駄だ。

「分かりました、適当に説明しておきます。」

そう言う先輩に安曇さんはもう一度礼を言うと、私を抱きかかえたまま店を後にする。

私はその間、黙って彼の胸に顔をうずめていた。

正確には動くことができなかっただけなんだけど。

店の外に出ると、目の前で待っていた彼専用車に乗せられる。

いつの間に呼んだの・・・。


やっと彼から開放されてホッとした気持ちと、もっと近くにいたい気持ちが一緒に押し寄せる。

私は彼から少しでも離れたくて、座席の一番端に座り、窓の外を向いた。

後ろでドアの閉まる音がして、車が発進する。


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