魔王に甘いくちづけを【完】
「―――っ、バル・・・びっくりしたわ」


―――いつの間に、来たの?

ノックの音、聞こえなかったけれど。

気付けば室長も定位置からいなくなってる。

ペンを取り上げられ、そのまま腕を引かれたので自然に体が立ち上がる。



「驚かせるつもりはなかったんだがな・・・。余程集中していたんだろう。邪魔してすまん」



両手をしっかりと握り、近付いてくるバルの瞳は相変わらずに優しい。

あの夜会の日から、毎日必ず一度は私の部屋に来るようになった。

その理由を教えてくれたのだけど。


“俺の気持ちを伝えるため。それと、これが一番重要なことなんだが。俺に惚れてもらうため、毎日お前に会うことにした”


今までは遠慮していたそう。

これでもかと、惜しげもなく自由に想いを伝えてくれる。

バルにしてみれば、貴重な時間を割いて来てくれる有益なひと時らしいけれど、私にしてみれば、挙動不審になってしまう困ったひと時なわけで・・・。

時間は短いけれど、会うとこうして触れてくるから。

抱き締められることは流石にないけれど、熱い瞳で暫く無言のまま見つめられるものだからそのうち唇が降ってきそうで、居心地が悪くて俯いたりする。

と、逸らすなとばかりに顎に指を掛けられて元に戻されるのだ。

魔の国の男性は皆こんな風に強引なのかしら。



バルのことは嫌いではない。

とても素敵な方だもの。

どちらかと言えば、好意を持ってる。

けれど――――



「あの・・・・お話は、なに?」


もしかしたら、カフカのコックさんに会えるお話なのかも。

期待を込めた瞳で見上げる。

お話は通ってるらしいけれど、当のご本人の承諾が得られないそう。

何故なのか、その理由は教えてもらえない。



「実は今朝、王妃に叱られたんだ」



―――王妃さまに・・。

ということは、違うわね・・・。


あからさまなガッカリ感を見せないよう、微笑みを作って向ける。

バルやジークが、何度も話してくれてるのを知ってるから。



「叱られたということは、もしかして・・・また、どこかに。旅に、出掛けるの?」

「いや、暫く予定はない。今からするのは出掛ける話ではあるが、厳密にいえば、俺が、じゃないんだ」


「そしたら、誰のお話?ジークのこと?」



もしかして、しばらく森に帰るのかしら。

フレアさんに何かあったのかも。



「ジークのことでもない。俺は、言われて思ったんだ。そういえば、そうだな・・・と」

「バル、それじゃ何なのか全く分からないわ。説明して。一体何を、納得したの?」
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