魔王に甘いくちづけを【完】
「こう言われたんだ――

“貴方、よろしいこと?

よくお聞きなさいませ。

心から大事にしておられるのは、見ておりましても十分に伝わってきますし、大変良く分かりますわ。

けれど、大切に閉じ込めておくだけが、愛情の表現ではありませんことよ。

貴方は、そこのところ、わかっておりますの?

このままでは嫌われてしまいますわよ”

――――と」


王妃さまの口調を真似る様は、声は全く違うけれど特徴をよく掴んでいて、あたかもここにご本人がいるよう。

「バルったら、よく似てるわ。さすが、親子ね」



可笑しくなって笑ってると、バルの表情もどんどん柔らかくなっていく。


「だから・・・というわけではないが――――」


ずっと握っていた手が離され、姿勢をただしたバルの手が改めて差し出される。



「―――妃候補殿。今度、俺と、デートしてくれないか?」

「あの、それは・・・つまり・・・」



・・・城下に、出掛けるってこと?

さっきまで見せられていた、迫力満点のアリの顔が思い浮かぶ。

・・・出掛けても、いいのかしら・・・。



「バル、城下は・・約束と言うか、アリが条件を決めているの。知ってるでしょう?だから」

「知ってる。それは、それ。俺は、俺だ。別に考えろ。俺は、もっとお前の笑顔をみたいんだ」







――――と、予想外にも、城下行きが叶うことになってしまったのだ。




「行く約束はしたけれど、日にちはまだ決まってないわ」

「そぉなんだぁ・・・。お仕事、いつも忙しそうだもんね。でも、バルさんのことだから、急に前触れなく“今から行くぞ”って言ってきそうだね。いつでも心の準備してなくちゃ・・・あ、そういえばね、こんなこと聞いたんだぁ」


うふふと笑いながら、見習い仲間から仕入れた“彼氏とこんな出来事があった”のエピソードを一つだけ面白おかしく話してくれた。

お喋りがひと段落したので、漸く口が挟めるようになる。

今日はお休みの日だけれど・・・。


「リリィ、時間はまだいいの?」


と、壁にある時計を見上げて青くなって慌てだした。

その様子を見て、やっぱり、これからはもう少し早く声を掛けてあげよう、と決める。



「―――――っ!いっけない、もう行かなくちゃ・・・ザキに叱られちゃう。それにっ、身支度侍女さんたちにも怒られちゃう!」

「行ってらっしゃい。楽しんできてね」


パタパタと駆けていくリリィの小さな背中に声を投げる。

ドアを開けてすぐに「センパイ、ごめんなさいっ!!」って謝る姿を苦笑しながら見送って考える。



―――城下行き。

それを知ったら、アリは何て言うかしら。

何だか、とても嫌な予感がするのは、出来れば気のせいにしたい。



「ユリア様、おはようございます」

「おはよう、今日もよろしくね」
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