恋のレシピの作り方
「私の前で、自分のレシピを破った時の一条さんの悲しそうな顔が忘れられなくて……だから、私になにかできないかって……」

 ―――お前は余計なことするな。

 今でも耳に残っている一条の冷淡なあの言葉。もしかしたら、自分はおせっかいで、余計なことをしているのかもしれない……。でも、余計なことだとわかっていても、奈央はなんとかしたいと願わずにはいられなかった。

(でも、やっぱり一条さんにとって迷惑なことなのかな……)


 その時、北川が煙草の火種を消すと俯く奈央の顔をにっこり笑って覗き込んだ。

「そんな顔すんなって、それと、俺もちょっと気になることがあってさ」

 北川のトーンが落とされると、奈央はゆっくり顔を上げた。


「あまり確信が持てないから、ここだけの話しだぞ……先日、田川麗華がここに来たんだ」


「え……? 北川さん、麗華さんのこと知ってるんですか?」


「俺と司はパリで出会ったって言ったろ? あの女が司の追っかけだったことくらい知ってるさ、けど……」

 北川はグラスを傾けながら、当時のことを思い出したのかうっすら笑っていた。


「司は興味なさそうだったけどな……あの麗華って女も相当しつこくてさ、まぁ……その話は置いといてだ」

 話が派生しそうになるのを留めて、北川が少なくなったグラスの中身を継ぎ足すと、急に真顔になって言った。


「その女がヴェルテのオーナー清家と一緒にうちの店に来ていた……」

「え……?」



 先程から嫌な焦燥感に煽られて、心臓の音が奈央の鼓膜を激しく打っていた。
 奈央は渇水する喉を潤したくてグラスに手を伸ばすと、中の氷が滑り落ちてカランと音を立てた。



「何話してるかはわからなかったけど、なんかちょっと揉めてるみたいだったな」


「……」

 混乱していく頭が緩慢になっていく。

(麗華さんが……? ヴェルテのオーナーと? 一体なぜ……?)

 奈央はそんな交錯する思いをかき消すように、一気にグラスの中身を飲み干した―――。
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