キミが望むのなら
その時ふと見えた、見覚えのある後ろ姿。
「っ!!桃香っ!!」
力の限り、名前を呼んだ。
でもガヤガヤしているここでは、すぐに俺の声はかき消されてしまう。
「桃香っ!!桃香っ!!」
頼むよ!
気付いてくれっ!!
人混みを掻き分けながら、必死に名前だけを呼び続けた。
俺の声が届くように……
俺の望みが……届くように。
搭乗口に見える桃香の体が、ゲートをくぐって中に入っていく。
っ!
イヤだっ!
イヤだっ!!
このまま桃香と会えなくなるのだけはっ……
頼むから、届いてくれっ!!
「桃香っ!!」
今までで一番叫んだ瞬間だった。
でも、俺の声が届くことは……なかった。
俺の望みは―……
――叶わなかった……