キミが望むのなら


―――――――――……


「悠さん、どうしたんですか?ボーっとして」


「あっ、おばあ様。ちょっと昔を思い出してて……」


「思い出に浸るのもいいですけど、お嫁さんの着替え、終わったみたいですよ」



そう。


俺は今年、結婚する。


今日は紺野呉服店で、その式で着る色打掛の試着に来た。


「白無垢は見なくていいんですか?」


「それは式で見たいんで」


「そう」


この4年で再発もなく、おばあ様はゆったりとした生活を続けている。


俺が後を継いで1年目は、それはまぁ、凄い厳しい指導をされたけど……



それが無くなったってことは、俺のことをやっと認めてくれたってことかな……?



「悠さん、着替え終わりましたよ」


美智花さんが、綺麗な白い指を引き、そこから誘導する……


「あぁ、やっぱり俺の思った通りだ」


「ふふっ、悠君の選んでくれた色打掛は似合ってる?」


ふんわりと、甘い甘い桃の香りが俺の鼻をかすめる。


この笑顔が……俺の望んだ笑顔。






「うん……。綺麗だよ。桃香……」





そう、俺は桃香と……


鈴木桃香と、今年結婚する―……



< 296 / 325 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop